一蹴 本とか映画とかドラマとか

本、映画、ドラマをとりとめなく語るブログ

哲学的なテーマもあるしっかりあるSF『ミッキー7』

小説のネタバレを回避しながら感想を伝えるのは素人にとって難しい。日曜の朝刊の書籍紹介を読むと、その難しさを実感する。彼らはネタバレを避けつつ、読者に本を読ませたくなる文章を書いており、さらには我々をスマホを開いてAmazonのページに誘導させる…

人が死なないミステリ『ロンドン•アイの謎』

『ロンドンアイの謎』はヤングアダルトミステリのジャンルに分類されるであろう、「人が死なない」ミステリ作品だ。 著者のシヴォーン・ダウドは2007年に『ロンドンアイの謎』を刊行するも翌年、乳がんで47歳という若さでこの世を去った。(詳細はこちら:リ…

綺麗な図版で知的好奇心を満たす『ドーキンスが語る飛翔全史』

ドーキンスの語る「科学」はいつもわかりやすい。たまにその語りが伝えたい内容のテーマから横にそれることもあるが、それも知識として無駄のないものなのだ。そんなドーキンス節が味わえるのが『ドーキンスが語る飛翔全史』である。 どんな本? 『ドーキン…

リバタリアンだらけの街は住みやすいのか?『リバタリアンが社会実験してみた町の話:自由至上主義者のユートピアは実現できたのか』

リバタリアンと言われても、日本ではピンとこない。そして、その思想を高らかにこの国で叫んでも、なびく人は少ないだろう。そんなことを言うと日本のリバタリアンからおしかりをうけそう。では、リバタリアンの定義をここでみてみよう。 リバタリアンとは何…

アイロニーとユーモアがつまった『こうしてイギリスから熊がいなくなりました』

タイトルどおり現在はイギリスから熊が存在しないらしい。 その事実を踏まえてミック•ジャクソン風の皮肉の効いた奇妙な熊たちの物語へと料理された短編集である。 なぜイギリスから熊がいなくなったのか なぜイギリスから熊がいなくなったかを調べてみると…

地政学本の入門としていかが?『恐怖の地政学』

ニュースを見ていると、なぜロシアはウクライナに侵攻したいの?と漠然とした感じでネット検索してしまう。結果として理由が次々とでてくるのだか、まずそれは横に置いといて、地政学的にどうなんだ?と思ったのなら大規模な書店に行くとよい。平積みのコー…

アンディ•ウィアー『アルテミス』も読んでおこう

現在SF小説で大ヒットしているのは『プロジェクト•ヘイル•メアリー』。アンディ•ウィアーの長編小説第3作である。ライアン•ゴスリングが主演で映画化も決定している。 もし『プロジェクト•ヘイル•メアリー』をアンディ•ウィアー作品として初めて読んだのな…

『オスマン帝国-繁栄と衰亡の600年史』で600年の歴史と世界史を同時に学ぶ

歴史の堅苦しい本は飽きるし、項数多くて分厚いし、硬い文体で眠ぬて読めなくなる本が多いので、新書で読みやすい『オスマン帝国 繁栄と衰亡の600年史』(以下『オスマン帝国』)を手にとってみました。 この『オスマン帝国』は600年余りのオスマン帝国の通…

SFでミステリで『書架の探偵』

ジーン•ウルフの作品を何か読みたいんだか何がいいの?と聞いてみたら、誰かが『デス博士の島その他の物語 』をオススメしてきた。タイトルとカバーとレビューを見ただけで遠慮してしまって、もうちょっと軽めの作品をと希望した回答が『書架の探偵』だった…

『誓願』はディストピア小説にとどまらない

『侍女の物語』の続編『誓願』 マーガレット•アトウッド『誓願』は同作家『侍女の物語』の続編。舞台は前作から15年後の世界。単に「フェミニズム文学」と言ってしまうと、そうなんだけど、その先入観で読みすすめてしまうと思うので、もっとエンタメ的な視…

『The Coddling of the American Mind』は教育者向けの本だった。

はじめに ツイッターのタイムライン上で題名を見ただけで吸い寄せられるようにkindleでポチった未邦訳だった本書。 当初は気が引けていたが、英語圏読者の感想がポジティブで、内容も面白そうだったのと、ノンフィクションなので、英語の言い回し(比喩と引…

『三体Ⅲ 死神永世』やはり凄いSFだった

『三体』三部作が3巻目『死神永世』(ししんえいせい)で完結した。完結したあとも、本書の解説に書かれているように、本国ではファンメイドの外伝小説が生まれたり、Netflixでドラマシリーズの告知もされた。本国で発売されて10年ほど経っても『三体』の勢…

子育て中に読みたい『子どもが育つ魔法の言葉』

子どもは親の鏡 とは本当言い得て妙。 この本の冒頭はこの題名の詩が書かれています。 誉めてあげれば、子どもは、明るい子に育つ 愛してあげれば、子どもは、人を愛することを学ぶ 認めてあげれば、子どもは、自分が好きになる 見つめてあげれば、子どもは…

ディックのSFではない作品『市に虎声あらん』

フィリップ•K•ディックが23歳のときに書いたSFではない文学作品。 あらすじ 主人公のスチュアート•ハドリーはTV店で働いている。自分は何かと違うと感じながら、あるとき、黒人教祖のベックハイムの説法を聞きいって、ベックハイムに会いにいってから、ハド…

今年読みたいSFのひとつ『最終人類』

『最終人類』は上下巻に分かれた長編SF小説。上巻は人類の主人公が種族の違う異星人の仲間たちと目的をもって宇宙に飛び出し、映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』さながらの雰囲気。下巻では急転直下の展開で、壮大で哲学的なテーマになる。『三体…

SFが好きなら読んで欲しい『裏世界ピクニック』

何やら今期のアニメでやっているということで、原作小説を既刊の5巻までイッキに読んでみました。 主人公は紙越空魚(かみこしそらを)が、相棒の仁科鳥子(にしなとりこ)と裏世界と呼ばれる、奇妙な世界に行って、奇妙な生物を倒して、不思議なお宝を手に…

つらくなったら全力で逃げる『地下鉄道』

小説を楽しむ方法はいくつかある。物語の構成や描写を楽しんだり、主人公の視点から、物語の中で同じ体験を味わうのもそのひとつ。『地下鉄道』はアメリカの大規模農園の奴隷として使役されていた黒人の視点からその当時の世界を味わえる物語である。 主人公…

自由意思を扱ったSFを読んだらデネットの『自由の余地』を読むと良いよという話

テッド・チャンの作品に『予期される未来』という短編SFがある(同著『息吹』に収録)。この物語は予言機という機械があって、ボタンを押すとLEDのライトが光る。正確に言うと、押す一秒前にライトが光る。つまり、どんなに早くボタンを押そうとしても、ライ…

『独学大全』を読んで実践していること。

はじめに 学生時代はあまり勉強しなかった人が、30代後半あたりから、突然と勉強したくなる衝動にかられることがこの世の中に一定数いるんじゃないのか?と、その中のサンプル数のうちの1人であろう私がいつも思っていることである。 その私は、なにぶん子供…

宇宙へ進出する飛行士の物語『宇宙へ』

事前情報はまったくなしで、この本を手にとり読んでみた。てっきり、宇宙へ(外宇宙へ)でかけていって、異星人とコンタクトして(『三体』みたいに?)対峙したときに共存するのか、闘うのかみたいなSFと思い込んでいたのだが、まったく異なるものですごく…

環境問題系SF?『第六ポンプ』

パオロ・バチガルピ。なんとなく口ずさみたくなる名前パオロ・バチガルピ。 このSF短編作品の作者の名前である。 バチガルピは環境系の専門誌の編集者をしていたそうだが、この短編のいくつかはそのようなバックグラウンドの匂いがする。つまり環境汚染や資…

SF好きはみんな読んでる『三体Ⅱ黒暗森林』毎週金曜日が楽しみ『怪獣8号』

三体Ⅱ 昨年にSF小説『三体』が発売され、わたしはTwitterに「ハードSFではないから読みやすいよ」みたいなツイートをした記憶があります。ですが、今作『三体Ⅱ 黒暗森林』はみごとにハードSFです。宇宙物理学や量子学を使った表現がちらほら出てくるので、詳…

都市が主役のSF『都市と都市』

『都市と都市』はチャイナ・ミエヴイルが数々の賞を受賞したSF小説。SF好きからしたらSFか?という議論になるだろうし、ミステリ好きからしたら少し物足りないバディ警察ものと思うかもしれない。わたしは読後に奇妙なSF(わたしはSFとしてます)という感想…

『medium 霊媒探偵城塚翡翠』と『ザリガニの鳴くところ』の2冊

最近読んだ2冊の小説。 どちらも結末が最後に「そうくるか!」というのが感想です。 物語の構成はどちらも凝っていて最後に伏線を回収していきます。物語の描写は『medium霊媒探偵城塚翡翠 』の方は多重なトリックだったり、登場人物の言動や行動がよく描か…

『疫病と世界史』と『国家はなぜ衰退するのか』を読んでポストコロナ渦の未来を想像してみた。(後編)

一方『国家はなぜ衰退するのか?』では、古今東西さまざまの国家の衰亡について説明し、ある共通点を教えてくれている本。 たとえば衰亡していった国の例として、いくつかの古代帝国やソ連、そして現在進行形ではソマリアなどがあげられている。 本書を読む…

『疫病と世界史』と『国家はなぜ衰退するのか』を読んでポストコロナ渦の未来を想像してみた。(前編)

西暦2020年という年は人類の歴史において忘れられない年になった。 大人たちは仕事を在宅からのリモートワークをしいられ、子供たちは学校に行けず家で課題をこなす。エッセンシャルな職種の人間は感染の危険を感じながら出勤し、保育園に預けた子供はいつも…

『LIFE3.0』を読むとシンギュラリティも近い気がする

仕事の関係でとある外部の講習会に出て、一般社団法人のお偉いさんに言われたことが「君たちの仕事はいずれAIに取って代わられる」である。おそらく色々な職種の勉強会等で、このようなお言葉をAIのこともさっぱり分からないお偉いさん達が言ってるんだろう…

本が読める幸せを感じる『戦場の秘密図書館〜シリアに残された希望〜』

土曜日の午後に仕事が半日で終わるときは、帰宅後に散歩しながら娘と近所にある区民センター内の図書室にむかうことがある。 私はネットで予約していた本を受け取りに、娘は学校の図書室にはない本を選びに。それが土曜の午後の楽しみのひとつでもある。 今…

『密林の語り部』ラテンアメリカ文学の入門にオススメ?

ラテンアメリカ文学を読みたくて、片っ端から読みたい本リストに放り込んでいたのを思い出して読み耽ってた。 ユダヤ人のサウル・スラータスは大学で民族を専攻していた。サウルは密林に住む原住民を守る活動をしていくうちに自分が部族と同化していき、自ら…

やっと新刊が出たよ。テッド・チャン『息吹』の感想

発売前から読みたいという作家はほとんどいない。たいていはSNSやアマゾンのお知らせで「あーこの本出ていたんだ。読もうか」くらいの程度で読む。ただし、テッド・チャンだけは別でまだ次がでないかと待ち望んでいた。前回の短編集『あなたの人生の物語』か…