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『密林の語り部』ラテンアメリカ文学の入門にオススメ?

ラテンアメリカ文学を読みたくて、片っ端から読みたい本リストに放り込んでいたのを思い出して読み耽ってた。

ユダヤ人のサウル・スラータスは大学で民族を専攻していた。サウルは密林に住む原住民を守る活動をしていくうちに自分が部族と同化していき、自らが部族の神話を伝える「語り部」と転身していく物語。

主人公の「私」はフィレンツェの写真展でみつけた密林の写真から、大学時代の友人のサウルとの交流を思い出しこの物語がはじまる。 密林の部族のひとつマチゲンガ族という部族では、生活していくうえでの神話を語る「語り部」という役割がある。

その「語り部」がその神話を自由に語るというパートもこの小説に描かれている。 この小説の物語の構成はこうだ。1章(プロローグ)→2・4・6章(「私」のパート)→3・5・7章(「語り部」のパート)→8初(エピローグ) 「私」のパートでは主人公の「私」が友人サウルが文明を捨て密林に入り部族とともに生活し、語り部となる過程が描かれている。一方で「語り部」のパートでは、自由自在に語り部が神話や伝説、いまの密林の現状を語っている。

この神話を語る「語り部」パートが面白い。いや、正しく言うと、読みすすめるごとに面白くなってくる。 この「語り部」パートは、時間や視点が形式にとらわれずに自由すぎて面を喰らっしまうが、徐々に密林のなかで語り部が語り、本を読んでいる自分が密林の中で語り部の前に座り、「聞き手」となって聞いている状況に思えてくる。 とくに「気がついたら虫なってしまった」というエピソードは、フランツ・カフカ「変身」のまんま不条理のことを語り部が語りだす。

「私」のパートで友人サウルがカフカの大ファンで「変身」を諳んじることができるくらい大好きだ、ということが描かれているので、この「気がついたら虫なってしまった」エピソードを語りだすあたりで、読者は語り部がサウルなのでは?と気づきだす仕掛けも面白い。 この作品はマイノリティーのことや人類への警笛、文明と文化の衝突などいろいろな感想が各所でさまざまな人が述べられているらしい。 まあそれは置いといて、構成も面白く、語り部の神話や伝説の話も興味深いし、さらにフィクションなの?ルポタージュなの?と、とまどう不思議な作品でもあるなと感じたし、単純に「物語の語り方」には無限の可能性があることを気づかせてくれる小説なんだ!でいいのではないかと思った。 そういうわけで、マリオ=バルガス=リョサの入門としては読みやすくすごくオススメです。

『密林の語り部』バルガス=リョサ(著)西村英一郎(訳)岩波書店