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地政学本の入門としていかが?『恐怖の地政学』

ニュースを見ていると、なぜロシアはウクライナに侵攻したいの?と漠然とした感じでネット検索してしまう。結果として理由が次々とでてくるのだか、まずそれは横に置いといて、地政学的にどうなんだ?と思ったのなら大規模な書店に行くとよい。平積みのコーナーに地政学の本のスペースがある。ひとむかし前に地政学といえば、『マッキンダー地政学』くらいしかなかったかもしれないが、いまは地政学という名のつく書物が平積みされているのだ。そのなかでもオススメしたい地政学本のひとつは『恐怖の地政学』原題(Prisoners of Geography)だ。

「はじめに」で書かれているロシアがウクライナを狙う理由

本書の冒頭でこのように書かれている。

~~ << ロシアのウラジミール•プーチン大統領は、自分は信仰に篤い人間で、ロシア正教の熱心な信者であると述べている。それが本当なら、プーチンは毎晩ベッドで神に祈り、こうたずねているはずだ。「神よ、あなたはなぜウクライナに山岳地帯をお創りにならなかったのですか?」

ウクライナは広大な東ヨーロッパの平原に位置する。過去、たびたび、この地域からロシアが侵攻されるため、地形的な理由から見るとロシアに現れる為政者は昔も今もウクライナを敵国勢力にとられたくない要所なのだ。ウクライナが山岳地帯であったら、西ヨーロッパの脅威の被害妄想に取り憑かれることなく過ごせるのだが、そうはいかない。

この本の原著発行は2015年。2014年にウクライナクリミア半島へロシア侵攻した後に書かれたものなので、振り返ってみると著者は地形的な理由からプーチンの狙いはずっとウクライナに焦点が合っていることを伝えていたわけだ。

このように本書は地理的な制約が国を悩まし戦争や紛争が過去から現在まで起きる要因を教えてくれる。

本書は10章からなり、各章が世界の地域ごとの地政学的な政治情勢を教えてくれる内容だ。

北極圏は新たな地政学上の問題

第10章の北極圏については興味深い。北極圏は気候変動により、未開の地から開拓できるフロンティアになっていることを伝えている。石油や石炭のエネルギー資源だけでなく、鉱物や漁業資源、凍土が現れることで栽培できる農産物などの資源種類は多い。しかし、それを人類の資源と唱える国々と、我が国のものと唱え国があり、新たな地政学上の問題がはらんでいることを警告している。

北極圏の各国が領有権を主張しているがもっとも積極的なのはロシアで、いろいろな手を使って主張している。北極圏の専門家が「新グレートゲーム」と呼んでいるなかで、各国が本質的な欲望を抑えへ北極圏での利益がグレートゲームのプレーヤーにいきわたり平和的に解決できるのか?と提起している。

世界史に興味があるひとにもおすすめ

世界史を学ぶ上で地政学は重要。なぜなら、地形は歴史に大きく関わっているからだ。例えば、ヒマラヤ山脈が無く広大な平原だったら、中国とインドはいまのような関係なのだろうか?

アフリカ大陸が渓谷や激しい川や滝が少なく、鬱蒼としたジャングルも、ヨーロッパのような森林であったのなら、人類発祥の地として、先陣を切り、他の地域に遅れることなく発展していったのではないのか?

この本を読むと歴史についても考えを巡らせることができる。

まとめ

本書の著者は紛争地域にでむき現地で取材してきた政治ジャーナリスト。地政学者ではないので、机上で論じる学術的な地政学とは異なるが、ジャーナリストからみた地政学的リスクの考えが面白いし入門書としてもわかりやすい。興味があれば地政学者の本をとってみるのも良い。

『恐怖の地政学』著 ティム•マーシャル /訳 甲斐 理恵子 さくら舎