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宇宙へ進出する飛行士の物語『宇宙へ』

事前情報はまったくなしで、この本を手にとり読んでみた。てっきり、宇宙へ(外宇宙へ)でかけていって、異星人とコンタクトして(『三体』みたいに?)対峙したときに共存するのか、闘うのかみたいなSFと思い込んでいたのだが、まったく異なるものですごくホッとした。

あらすじは、1952年アメリカ大陸の海上に隕石が落下し、気候変動が起こる。いずれその気候変動によって、地球が人類が住むことができないくらいの過酷な気候条件になることが専門家によって予測がたてられた。そのため人類は、地球という場所から脱出し宇宙に進出せざるを得ない。その最初の一歩として月に向かうため主人公は四苦八苦する物語。

気候変動ために宇宙開発がもっと早まっていたらこうだったのだろう。といういわゆる歴史改変SFなのでした。

物語冒頭の隕石落下による衝撃波から、主人公は夫ともに命からがら空軍基地へ逃げのびる描写までは、映画のシーンさながらの展開でとても物語に入り込みやすい。また、物語の背景には人種や性差別がまだ色濃い時代というのがあり、そのなかで女性が宇宙飛行士を目指すというプロットも共感できます。

主人公は天才的な計算能力とパイロット技術をもっているが、天才がゆえ、数学の能力で飛び級して大学に入ってから、男性たちからの攻撃で心に闇を抱えてしまう。そのことが主人公が宇宙飛行士のテストを受けるころまで影響与えてしまう。

完璧な人間はこの世に存在しない。存在しえるのならそれはすでに人間ではない。だからこそ、人智を超えたものに対峙し、乗り越えようとする物語にロマンを感じるのかもしれない。

この物語でいえば、主人公を含め、完璧ではない人間たちが人智を超えた突然の災害に、それぞれ苦しみながらも、地球を脱出するため模索するというところだろうか。

この作品のシリーズ(他は未翻訳)は火星を目指してるものなのでレイ・ブラッドベリの小ネタもありますので、そこらへんもニヤリとしながら読めます。

こんな宇宙進出ロマンとは対象的な作品がNetflix『スペース・フォース』というコメディがくだらなくて面白い。とりわけところどころ社会風刺ネタを挟んでくるところがなおよい。

アメリカの宇宙軍が中国に宇宙進出を妨げられるところなどのシーンは、近未来に実際ありそうで笑うに笑えない。『宇宙へ』と読んでいる時期に観てしまったので、その対比で面白かっただけかもしれないですが。

『宇宙へ』ハヤカワ文庫 著 メアリ・ロビネット・コワル 訳 酒井昭伸