この時期、早朝の3時は寒い。窓の外は冷えているせいで、路面が部分的に凍っていて、街灯の灯りを反射させている。 寒いなとつぶやいて、毛布をかぶる。子供たちが寝ていることを確認してリビングに向かってPS4のコントローラーを握る。
デス・ストランディングは小島秀夫監督が独立し初の作品。ノーマン・リーダスが演じる主人公サムが、荷物を運びながら、異形のものや敵対する人間から逃れるトレーラーを見た瞬間に「このゲームをプレイしたい!」と、天籟を受けた。それから数年、やっとこの時が来た。 今このゲームをプレイすることは新しいゲームの歴史を味わっているといえる。それくらいゲームシステムは斬新であり、物語も味わい深い。昨今流行っているゲームといえばスマホでガチャすれば強くなるキャラクターのゲームや、バトルロワイヤルで最後のひとりが勝利する対戦ゲームだと思うが、これが悪いとは言わない。ただ私はそれらのゲームが苦手だ。ゲーム性ももちろんだが、ナラティブがないとのめり込めないというやっかいな性格のせいかもしれない。そんな私が、デス・ストランディングは心底プレイしたいと思えるゲームだと思った。
さて、ゲームの内容についてはここで深く触れないが、このタイミングで小島秀夫氏が連載していた記事をまとめたものが文庫本『創作する遺伝子 僕が愛したMEMEたち』として発売されたので、デスストランディングをプレイしている人だけでなく小島ファンなら読んでおきたいので、ここでこの本について触れておく。
タイトルに僕が愛したMEMEたちとあるので、MEMEの意味を知らないと、ぼやっとした理解にのるので、このMEME(以下ミーム)の説明をする。 ミームについては本書でも書かれてるのだが、ミームは進化生物学者リチャードドーキンスが利己的な遺伝子の中でで提唱したもので、ものすごく単純化していうと、文化的または社会的な習慣、物語、言葉、音楽などが、家族、世代、民族で伝播し進化していくこと。さらに、このご時世では自分が「いる」ネットやSNSでのクラスタ内で同様なことが起きること。と、私の中で解釈してる。 というわけで、この書籍は著者が影響を受けたミームたちについて語っていて、さらにそのミームが小島ゲームをプレイした人達が、そのゲームを通じて、私たちにも受け継がれていることになる。 本の内容は、前半がおもに著者がミームを受け継いだ書籍の紹介、後半はおもに映像作品の紹介されていた。
その中でも、アゴダクリストフの『悪童日記』『ふたりの証拠』『第三の嘘』について語っているのが個人的に興味深い。私的に東欧系の作家が好きなだけであるが。 アゴダクリストフはハンガリー出身で、フランスに亡命して、作家としてデビューする。処女作の悪童日記はフランス語で書かれたものだ。悪童日記は双子の兄弟が、戦時下で疎開(?)した先で老婆とくらす物語で、戦時下という異質な空間のなかで、双子が成長する過程がおもしろく、結末に驚愕する。続くふたりの証拠では、双子たちが、別々に暮らすのだが、終始、物悲しさを漂わせる作品で読者の切なさを与え最後にちゃぶ台を返される。そして第三の嘘へ続き、真実を明かされていい意味で読者裏切っていく。 ネタバレになるので、詳しくは語られないが、以前この3部作を読んだときのインパクトはすごかった。 小島氏がこの作品を紹介した連載当時が、東日本大震災の一年後くらいの頃で、当時の社会の混乱や先の見えない不安みたいなものと、合わせて語られている。
この他にも、読みたいと思える作品が多数紹介されてるので、小島氏のミームをうけとりたいオススメの本。 さいごに本書の「おわりに」にこの本を集約された文があるので引用したい。
❝昨日までの経験があるから、新しい繋がりを結ぶことに確信が持てる。だからこそ僕は、本を読み、映画を観て、音楽を聴く。美術館や博物館へ行く。人に会う。歴史に学んで未来を創るとういうのは、そういう行為の積み重ねでしかない。❞