一蹴 本とか映画とかドラマとか

本、映画、ドラマをとりとめなく語るブログ

アメリカ労働者の暗部も見せてくれるドラマ『一流シェフのファミリーレストラン』

今年の海外ドラマは良作が多い。その中でも物語の構成と展開がすばらしかったり、人間ドラマを魅せてくれるドラマはやはり面白い。Disney+で配信されているドラマ『一流シェフのファミリーレストラン(原題 The bear )』もそのひとつに加えてもよいドラマだった。


あらすじ

一流レストランのシェフだったカーミーは、突然死した兄が経営していたレストランを任されることになった。兄を慕っていた従業員はなかなかカーミーに従わない。もろもろの支払いの延滞や税金の未払いもある。そして厨房は秩序もなくカーミーは大声を出しながら料理を作る。それでもカーミーは一流シェフだったプライドとともに従業員の教育と料理の質を向上させようとする。

惹きつける展開

あらすじからして、その後に従業員が更生し店も繁殖してカーミーも従業員もハッピーでおしまい、みたいなものを安易に想像しそうだが、そんなあたりきなドラマなら誰も見ない。全く読めない視聴者を惹きつける展開と最後にまちうける驚きの結末。そして、どこかに共感できる登場人物たちの人間ドラマに感動するはず。

心に何かを抱えている登場人物たち

一流レストランでシェフとして、働いていたカーミーは若くして有名になっていったが、上司からのパワハラでしだいに病んでいった様子がえがかれている。その後兄のレストランをついだあとも、ストレスを感じると安定剤を服用していたり、胸のあたりをおさえるシーンを目にする。料理の腕は凄まじいが、どこか危うい本質をカーミーから窺える。
カーミー以外の登場人物も安定剤に頼るシーンや、過去の職場の労働環境の悪さを語るシーンもでてくる。「明日からクビな」と簡単に言うことができるアメリカのハードモード社会も垣間見せてくれる。
この物語のキーマンは死んでしまったカーミーの兄マイケル。アルコール依存性で自殺したという。従業員たちもマイケルが好きであった様子も要所で描かれるし、主人公のカーミーがシェフになったのも兄の影響だった。物語の最終話まで死んだ兄マイケルが関わっているので、マイケルの話が出てくると注意して見ておくと最終話になるほどと思わせてくれる。

おわりに

各話30分程度のドラマで8話でシーズンが終わるのに凝縮されたドラマ展開になっている。その理由のひとつに撮影方法が凝っているからかもしれない。毎話ごとに観ていても飽きない調理シーンが必ずあったり、登場人物がシカゴの街並に溶け込んでいるシーンがある。レストラン内だけで物語をすすめると会話劇になりそうだが、そのようなシーンを挟むことで、1話30分そこそこのドラマが深みをましているような気がする。さらに第7話はレンストラン内だけのシーンをワンカットで撮影されたものだ。セリフが洪水のように飛び交いまくりの圧巻の20分である。それまでのエピソードとは雰囲気がまったく異なるのでより鮮明に映る。
ドラマの展開、人間ドラマ、目を惹くシーンなど、どれをとっても素晴らしい今年のドラマのひとつである。