一蹴 本とか映画とかドラマとか

本、映画、ドラマをとりとめなく語るブログ

アイロニーとユーモアがつまった『こうしてイギリスから熊がいなくなりました』

タイトルどおり現在はイギリスから熊が存在しないらしい。
その事実を踏まえてミック•ジャクソン風の皮肉の効いた奇妙な熊たちの物語へと料理された短編集である。

なぜイギリスから熊がいなくなったのか

なぜイギリスから熊がいなくなったかを調べてみると、
野生のユーラシアヒグマは、紀元前8000年頃からイギリスに生息していた。最盛期には、スコットランドの広大な森林地帯を中心に分布していたとされる。当時の熊は、森林地帯に生息する大型哺乳動物として、生態系の中で重要な役割を果たしていた。
中世には、貴族たちは熊狩りを好み、熊は王室や貴族の紋章にも使われるようになった。しかし、これによって野生の熊の数は減少し、17世紀頃にはすでにユーラシアヒグマはイングランドやウェールズから姿を消し、スコットランドでも数が激減した。
19世紀には、熊は狩猟の対象として人気があり、熊皮や熊肉が高く評価されていたことから、野生のユーラシアヒグマは狩猟され続けた。さらに、農地の開発や都市化が進み、熊が生息するための生息地が減少したことも野生の熊の数を減らす原因となった。
よって人間の活動によってイギリスから熊が消えてしまった事実があるようだ。

熊の視点から人間たちへの皮肉

熊が人間によって、イギリスから追いやられていった事実を知っていると、本書が単なる不思議な熊たちの物語というものから、人間たちが営んでいる生活への皮肉に捉えることができるから面白い。

たとえば、「市民熊」という物語は街のゴミを漁って暮らしている熊ではなく、人として人間社会に紛れている熊を描いている。その職業は深海潜水業者として。
潜水業者は熊を潜水士として仕事をさせている。もちろん人間ではないので、力もつよく危険な潜水作業をおこなわせている。人間にまぎれているくらいの熊なので、そもそも賢い。そんな熊が危険な潜水作業をどう思いやっているのか、雇い主の人間とどんな結末を迎えるのか、いろいろ考えさせてくれる短編だ。

この他にも、本書は町を占拠してしまう熊、人間の服装でサーカスをさせられている熊、下水道に閉じ込め下水道作業員や清掃員として使われている熊などを含む熊の物語が8編おさめられているが、どれもアイロニーとユーモアが散りばめられている。

本書は短く不思議な熊の物語で、われわれへの皮肉に満ちていた。

ミック・ジャクソン著 田内 志訳 文東京創元社