社会人になると、日々の業務に加え、新たなスキルを身につけることが求められる時代になってきた。特にICT分野では急速な変化に対応するため、リスキリングが必要とされ、関心を集めている。
しかし、自分の仕事以外の技術習得となると、負担に感じる人も多いだろう。私も器用ではないため、「リスキリング」が必要とされる状況は、正直気が重く感じる部分がある。
一方で、個人的に身につけたいと思う語学、楽器演奏、サーフィン、ジャグリングなどには興味があり挑戦してみたい気持ちはあるものの、時間的な制約や将来的な実現可能性を考えると、現実的には難しいのではと思ってしまう。 そんな中、興味深い書籍を見つけた。『ULTRA LEARNING 超・自習法――どんなスキルでも最速で習得できる9つのメソッド』という本で、著者はアメリカの人気ブロガーであるスコット・H・ヤングだ。
彼は、マサチューセッツ工科大学(MIT)に入学せず、同大学の公開授業を通じて、わずか1年でコンピュータサイエンスの4年間のカリキュラムを修了したという人物だ。そのヤングが書いた学習法の本であれば、信頼性が高いだろうと思い手に取った。
ウルトララーニング
本書のキーワードは「ウルトララーニング」だ。「ウルトララーニング」とは「自己管理的かつ集中的な、スキルや知識を習得するための戦略」とされ、特に「自己管理的に学ぶ」という独学の最大の難関に焦点を当てている点が、本書の特徴だ。その方法として、ヤングは9つの原則に従って進めることを提唱している。
それぞれの詳細は、実際に本書を手に取ってもらえれば理解が深まるだろうが、特に私が重要と感じたのは「フィードバック」についてだ。
一般に、メンタルが強く自己管理ができる人であれば、他者の評価に過剰に反応することは少ないかもしれない。逆に称賛や批判といった他者からの評価に敏感な人も多く、私自身もそのような傾向があると感じる。そのため、「ウルトララーニング」において「フィードバック」の重要性が強調されているのは非常に納得がいく。
フィードバックの効果
ヤングによれば、効果的なフィードバックは即時性、正確性、そして厳しさを持つべきだとされる。また、フィードバックに関する研究結果では、「フィードバックの全体的な効果は肯定的だが、38%のケースでは、フィードバックがむしろマイナスの影響を与えている」という興味深いデータが紹介されている。 特に、学習指針として有用な情報が含まれるフィードバックは効果的だが、相手の人格に対する評価(「君は賢いね」や「怠け者だ」など)は逆効果になりやすいとのことだ。
このため、ヤングはフィードバックを求める際に注意すべき点を2つ挙げている。一つは、具体的な改善情報を伴わないフィードバックに過剰反応しないことである。インターネット上では、有益なアドバイスとともに、粘着質なコメントも頻繁に見受けられるが、そうした不必要なフィードバックに左右されず、自分の目標に向かって淡々と進むことが重要だと述べている。特に今習得中のスキルがあれば、世の中の有象無象の意見ではなく、専門家から直接的なフィードバックを得ることが効果的だろう。
もう一つは、フィードバックに対する不安や恐怖が、実際のフィードバックを得ること自体よりも強いネガティブな影響を与えるという点だ。例えば語学学習のために現地の人に話しかけ、思うように伝わらずに落胆し、その結果学習意欲が低下してしまうことがある。しかし、ヤングはその壁を乗り越えることがスキル習得の近道だと説いている。実際、本書で紹介されているウルトララーナーたちは、必要なフィードバックを避けることなく受け入れ、正しいフィードバックを得ながら短期間でスキルを習得している。
では、どのようなフィードバックをどのタイミングで得るのが良いのかについては、本書を参考にしていただきたい。
まとめ
スキルをどれほどの速度で習得できるかは人それぞれだが、複数のスキルを身につけたいならば、効率的な学習方法を知っておいた方が良いだろう。これまで独学や勉強法に関する本は数多く読んできたが、本書は研究に基づき、著者自身が実践した内容で構成されている点が他と一線を画している。 現在、独学で何かを学んでいる方や、教室に通っているが成果が上がらないと感じる方、学生の勉強法に役立てたい方にも幅広く応用できる内容であるため、オススメだ。
おわりに
現代社会では、ますます速いペースで進化するテクノロジーや変化に対応するために、リスキリングが求められる時代となっている。しかし、ただ技術や知識を詰め込むだけではなく、学習の効率や成果に目を向けた「ウルトララーニング」を活用することで、より効率的にスキルを習得する道が開かれているのだ。
『ULTRA LEARNING 超・自習法――どんなスキルでも最速で習得できる9つのメソッド』 著 スコット・H・ヤング 訳 小林 啓倫(ダイヤモンド社)