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書店でタイトルを見ただけで買いたくなる『それいけ!平安部』

タイトル買い

『それいけ!平安部』を本屋で平積みされているのを見て、「平安部てなんやねん!」とツッコミを入れたのなら、すでに作者の術中にハマっているといえる。

『それいけ!平安部』は、『成瀬は天下を取りにいく』や『婚活マエストロ』の作者・宮島未奈による、平安部に青春をかける高校生の物語である。

宮島未奈の作品は、タイトルが目を引くものが多く、平積みされているとつい手に取りたくなってしまう。

本作には、『成瀬は天下を取りにいく』の成瀬のような圧倒的に個性の強い主人公こそ登場しないが、聞いたこともない「平安部」という部活を立ち上げた高校生たちの物語に、巧みな会話劇の妙によって引き込まれてしまう。


あらすじ

県立菅原高校の入学式当日、牧原栞は同じクラスになった平尾安以加から「平安時代に興味ない?」と声をかけられる。

安以加は「平安部を作りたい」と強く語り、その熱意に押された栞は入部を決意する。

しかし、新しい部活を創設するには部員が5人必要であり、2人ではまだ足りない。

あと3人集めなければならない状況である(泣)。

栞と安以加は、クラスメートはもちろん、上級生にまで声をかけ、部員集めに奔走する。

しかし多くの人が口にするのは、「平安部って、何やるの?」という疑問であった…。


平安部て何?

物語のはじまりは、部活ものによくある「部員集め」からスタートする青春ストーリーの王道をなぞっているように見える。

これは意図的な演出だろう。わたしが思い浮かべるのは『けいおん!』『mono』『日々は過ぎれど飯うまし』など。

調べればもっとあるのだろうが、わたしがパッと諳んじれるのはこの程度である…。

平安部の活動内容はなかなか定まらない。最初に行った活動は、平等院で買った菩薩像を使った神経衰弱だった。

そこから少しずつ、部の活動は平安時代に関わる内容へと広がりを見せていく。

このあたりはネタバレになるので詳しくは書けないが、前半から後半へのストーリーは大河ドラマを観ているような展開を感じさせる。

「平安部てなんやねん!」というツッコミから始まった読書体験は、最終的に「平安部サイコー!」という気持ちに持っていかれる。

こんな青春時代を送りたかった――そう感じるおじさんの鬱屈した心を刺激し、涙を流しながら読み終えた。


会話劇に惹かれる

本作には『成瀬は天下を取りにいく』でも見られたようなテンポの良い物語展開があり、登場人物たちの軽快な会話劇も魅力の一つだ。

たとえば平安部ならではの、写真を撮るシーンの会話も面白い。以下は文化祭の平安部で出したフォトスポットで会話するシーン

「『はい、チーズ』も何かオリジナルにしたいね」明石さんが言う。
「『はい、蘇』とかですか?」
安以加が大真面目に言うので、思わず笑ってしまった。
「『そ』ってなに?」
光吉さんが聞くと、安以加が「大昔の日本で作られてた、チーズみたいな食べ物だよ」と答える。
「必ずしも食べ物のチーズに寄せなくていいんじゃないかな」
「もともと『はい、チーズ』になったのは英語の『cheese』を発音すると自然な笑顔になるかららしいですよ」
明石さんと大日向くんが真剣に意見を出し合っている。
「『いと、をかし』なんてどう?」

最近、私が印象に残った会話劇のある作品といえば、小説ではないがバカリズム脚本の『ブラッシュアップライフ』や『ホットスポット』である。

登場人物たちの会話が面白く、センスの良い笑いで物語が進んでいく。

宮島未奈の作品には、こうした愉快な会話劇に通じるものを感じた。


感想とまとめ

『それいけ!平安部』は非常に読みやすく、他の文学作品に比べても、さほど時間をかけずに読了できるだろう。

コンテンツ過多の今、次々と新しい作品が出る中で、このような良作をコンパクトにまとめきっているのはとてもありがたい。

『成瀬は天下を取りにいく』の時にも一部で言われた「ラノベっぽい」という批評については、少し違うのではないかと思っている。

読みやすさだけでラノベっぽいと断じるのは、ラノベの様式美からも逸れているし、ラノベ好きの私からすると「あなた、ラノベ読んだことないやろ!」とツッコミを入れたくなる。

将来的には一般文学作品とラノベの境界線も曖昧になるかもしれない。

いや、すでにそうなりつつあるのかもしれない。

いずれにせよ、本作も立派な文学作品であることに変わりはない。

『成瀬〜』からのファンには、少し違ったタイプの青春ストーリーが楽しめるだろう。

そうでない方も、読み終えた後にはきっと「いみじ!」「あなや!」と平安貴族気分で口にしたくなるに違いない。