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2025年のヘビ年と『ヘビ学』が教えてくれること

はじめに


ヘビ年である2025年は、変化の年だといわれる。
これは、ヘビが脱皮を繰り返して成長する姿に由来しており、「生まれ変わり」や「再生」「新たな自分との出会い」を意味するとされる。


本年もすでに半年ほど経過したが、私事では変化があった。


自分で車のフロントガラスを傷つけたり、大腸ポリープの切除で一泊二日の入院予定が一週間に延びたりと…。
いや、どちらかといえば変化というより不幸な出来事が多かったか。


そんなヘビ年にふさわしい(?)一冊として、今回は『ヘビ学 毒・鱗・脱皮・動きの秘密』を紹介したい。


本書は、ヘビの生態から種類、危険性、毒ヘビに噛まれたときの対処法まで、多岐にわたる情報が網羅されたヘビづくしの本である。


著者は、群馬県太田市にあるヘビ専門の動物園、ジャパンスネークセンター(日本蛇族学術研究所が管理・運営)だ。


もちろん、飼育員は皆ヘビの研究者であり、専門家たちがアウトリーチとして著した専門的な読み物は面白く、一気に読み進めてしまうものだ。


この『ヘビ学』も例に漏れず面白いのだが、ヘビが嫌いな方や、『ドラゴンボール』のベジータのように「俺はニョロニョロしたものが嫌いなんだ!」という方には、無理に読まず、この感想だけで十分かもしれない。


ヘビの意外な性格


まず、本書の冒頭にあるヘビの性格に関する文章を引用してみよう。

ヘビという生物は一般的に「嫌われ者」である。生業のタネとしているくせに、なんと薄情な言い方だと聞こえるかもしれないが、スネークセンターの来園者でさえも3〜4割は「ヘビが苦手だったり、嫌いだったりする」とお答えだ。
皆さんは、「ヘビの性格」を想像するだろうか。恐らく多くの人は「攻撃的」「凶暴」など、危険なイメージをお持ちだろうと思う。
しかし、ほとんどのヘビは「神経質」で「臆病」な生き物だ。マルガメスネークやモールバイパーのように、なりふり構わず攻撃を仕掛けてくるように見える種もいる。
しかし、これらの種もベースは臆病で神経質、その性質が過剰だからこそ激しく攻撃する。それほど「凶暴」に見えるヘビだって、他の生き物、とりわけ人間が怖いのである。
オオアナコンダやアミメニシキヘビなどの超級大蛇はヒトさえも捕食する例外とするが、毒ヘビの最大種であるキングコブラですらヒトを恐れる。多くのヘビから見てヒトは巨大生物だ。ゴジラや進撃の巨人のようなもので、それが突然目の前に現われれば恐怖を(以下略)

ヘビの凶暴で攻撃的なイメージは、現在のメディアの取り上げ方がそのようなイメージを植え付けていると本書は指摘する。


危険性や毒の怖さだけが注目され、ヘビのその他の側面については詳しく知られることがないのだ。確かにその通りで、どんな動物にも多くの種類がおり、ヘビだけでも無数の種が存在する。


種によって捕食方法や生息場所(木の上、水辺など)も多彩であるにもかかわらず、それらを「ヘビは一種しかいなくて危険」であるかのように語られると、それを信じてしまう方がおかしいのではないかと思う。


これは、私たち「ヒト」という単一の種族が、他の生物を型にはめて考えているからに他ならないのかもしれない。


ヘビ毒のメカニズムと危険性


ヘビ毒の危険性をセンセーショナルに語るのもどうかと思うが、個人的に気になるのは、噛まれたときや毒を吹きかけられたときの対処法である。


本書の約3分の1がこれに費やされているのを見ると、正確な情報を伝えたいという著者の思いが読者にも伝わってくる。


スネークセンターは「毒ヘビ110番」を開設し、ヘビによる咬傷の問い合わせに対応するほか、ヤマカガシという毒ヘビの抗毒素の試験製造も行っているという。


さらに、ペットとして飼われているヘビの脱走捜索にも協力しているそうだ。


日本に生息するヘビの中で毒を持つものは、マムシ、ハブ、ヤマカガシである。このうち、ハブとマムシは出血毒で、文字通り人間の組織を出血させる。


マムシには少量ながら神経毒も含まれており、視神経に作用すると物が二重に見えることがあるが、これは回復するという。

ヤマカガシは出血毒のグループに分類されるが、血液凝固作用のある毒を持つ。


血液内に血栓を作ることで、過剰に血液凝固因子を消費し、それらが体内から減少することで、体内の細い血管が多い場所で出血を引き起こすのだ。この症状は「播種性血管内凝固症候群(DIC)」という病気に似ている。


DICは、体内で異常に血液が固まりやすくなり、微小血栓が全身に多数できることで、凝固因子や血小板が大量に消費され、結果的に出血しやすくなる現象である。


このように、凝固系が過剰に働きすぎて消耗し尽くすと、逆に止血ができず出血傾向となる。このような症状が、ヤマカガシの毒には備わっている。


一概に出血毒といっても、筋組織から出血したり、内臓組織から出血したり、凝固系に作用したりと様々だ。


ヘビの種類によっては出血毒と神経毒が混在したり、直接心臓に作用する心臓毒も存在するという。毒の被害には抗毒素が有効だが、どのヘビに噛まれたか分からず、経過観察をしている間に命を落とすこともあるそうだ。


ヘビと人間、そして最も怖い生き物とは


本書の紹介としてヘビ毒についての項目を主としたが、この他にも、ヘビにまつわる逸話や、野外でヘビに遭遇しない方法、偶然遭遇した場合の対処法なども面白く書かれており、飽きさせない。

本書でも紹介されているが、年間で人間を殺している生物ランキングでは、1位が蚊(約72万人、マラリアなど)、2位がヒト(約46万人、殺人、戦争、事故)、3位がヘビ(約5万人、ヘビ毒による咬傷)である。


この順位を見てヘビが怖いと思うだろうか?年間死亡者数を見て蚊が怖いと見るだろうか?


あるいは、ヘビはヒトが怖いと前述したが、さらにヒトもヒトを恐れている。


そう考えると、やはりヒトが最も怖い生き物ではないかと考えを巡らさずにはいられない。



『ヘビ学 毒・鱗・脱皮・動きの秘密』(小学館新書 著 ジャパンスネークセンター)