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PK戦から学ぶプレッシャーとの向き合い方『なぜ超一流選手がPKを外すのか』

はじめに

ワールドカップが近づき、サッカーに関する本を手に取る人は多いだろう。

しかし、私がこの本を読んだ理由は、少し違う。
きっかけは、受験や定期テストで信じられないミスを繰り返す自分の子どもだ。

ピアノのコンクールでも、練習では一度も間違えなかった場所でミスをしてしまう。

親として、もっと大きなプレッシャーに晒される超一流の人たちは、こんな状況でどう振る舞っているのか、という疑問が湧いた。

その答えを見つけられれば、プレッシャーとの向き合い方を子どもに教え、大人になった自分自身にも応用できるのではないか、と考えたのだ。

本書では、超一流の選手であっても国をかけた大舞台では失敗する可能性があることを示し、その失敗を防ぐためにどのような準備をし、チームとしてどう振る舞うべきかが語られている。

著者のゲイル・ヨルデットはノルウェースポーツ科学学校の教授であり、PK研究の第一人者である。イングランド、ドイツ、オランダ、ノルウェーのサッカー協会と連携し、PKコンサルタントとして数多くのナショナルチームやクラブチームを支援している。


PK戦は「メンタルゲーム」である

著者は冒頭でこう語っている。

正直に言うと、わたしはPKそれ自体にはそれほど興味がない。

わたしの主な関心事は、キックする前のプレッシャーに関するすべて。

選手たちが何を考え、何を感じるか、何をするか、他の選手たちとどうつながり、どうコミュニケーションを取るか、といったことだ。

そしてそこに不思議な力が生じる。


この本が伝えたいのは、PK戦は単なる運任せの勝負ではなく、明確な戦略が存在する「メンタルゲーム」だということだ。

そして、超一流アスリートがPK戦で直面するプレッシャーから、私たち一般人が学ぶべきことが多くあると示唆している。


プレッシャー克服のための3つの戦略

本書を読んで、プレッシャーに打ち勝つための戦略は大きく3つあると感じた。


1. 個人のプレッシャー対応

本書のデータによると、審判のホイッスルから1〜2秒で急いで蹴ると失敗しやすい。

また、ボールをセットする時間が短い選手ほど失敗の確率が高まるという。

一方、自分なりのPKルーティンを持っている選手は成功しやすい傾向にある。
成功率の高い選手には、それぞれに理由があるのだ。自分だけのルーティンを確立することが、プレッシャーに打ち勝つ第一歩となる。


2. チームでプレッシャーを乗り越える

PKを外した選手は、精神的に追い込まれ、世間からの非難にさらされ、その後のパフォーマンス低下にもつながることがある。

1994年のW杯決勝でPKを外したロベルト・バッジョは、5年後に自伝で「あの時ぼくは失敗した。それだけだ。そしてそれにぼくは何年も苦しめられた」と、当時の苦悩を打ち明けている。

本書は、失敗した選手を一人にさせないためのチームの行動についても言及している。

ただセンターサークルで見守るだけでなく、PKを終えた選手を迎えに行く。

そのように仲間が励まし、受け入れることで、選手のプレッシャーは和らぎ、チーム全体として勝利へと向かえることを教えてくれる。


3. プレッシャーの「予防接種」をする

PK戦は単なる運任せの宝くじではない。著者はこう述べている

プレッシャートレーニングは、予防接種プログラムのようなものだと考えるといいだろう。

選手たちを小さなプレッシャーにさらすと、それが予防接種の働きをして、後に大きなプレッシャーにさらされても耐えられるようになる。

この視点で考えると、ストレスによって人の心にトラウマが植えつけられるのではなく、むしろトラウマを経て人は成長し、ストレスへの耐性も強くなる。


小さなプレッシャーを経験しておくことで、大きなプレッシャーに耐えられるようになる。

これは、ストレスによって心が傷つくのではなく、成長し、耐性が強くなるという考え方だ。
近年では、VRやAR技術を使って、大観衆の歓声やブーイング、相手GKの動きなどを再現し、本番さながらのPK戦を何度もシミュレーションできる。

こうした事前準備とフィードバックが、成功の確率を上げる鍵となる。

プレッシャーへの対処法は、人生のあらゆる場面で活かせる


本書は、超一流選手でもPKを外す状況で、いかに自分をコントロールし、チーム全体で勝利を目指すかを説いている。

これは、飛行機や列車の運行、原子力発電所など、ミスが許されない仕事にも通じる、人間がミスとどう向き合うべきかを教えてくれる良書だ。

重要なのは、ミスをした本人だけを責めるのではなく、チームでミスをカバーし、次の行動につなげること。

そして、できるだけミスをしないように、事前に準備と戦略を立てることだ。

PK戦における成功の秘訣を読み解くことは、ひいては人間がどうすればミスをしないか、という問いの答えを探すことにつながる。

プレッシャーに弱いと感じる人や、より良いチーム作りを目指す人には、ぜひ手に取ってほしい一冊である。


『なぜ超一流選手がPKを外すのか サッカーに学ぶ究極のプレッシャー心理学

ゲイル・ヨルデット 著  福井久美子 訳  文藝春秋



なぜ超一流選手がPKを外すのか サッカーに学ぶ究極のプレッシャー心理学