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科学と人のつながりの短編集『月まで三キロ』

 

ドラマ『宙わたる教室』がとても面白かったため、原作者である伊与原新のほかの作品を探していたところ、家族が短編集『月まで三キロ』を手に入れていたので勝手に読み始めた。

 

 


本の表題作『月まで三キロ』は、事業に失敗し、死に場所を探してさまよっていた男と、彼を乗せたタクシー運転手とのやり取りを描いた物語である。

 

男は運転手に死に場所への送迎を依頼し、運転手はそれに応じる形で車を走らせる。

 

運転手はなぜか天文学に妙に詳しく、男がで自殺する場所を探しながら、ときおり天文にまつわる話をタクシー運転手が挟んでくる。

 

その知識の背景には運転手自身の過去が関わっており、男の心が少しずつ変化していく様子が胸をうつ。

 

これ以外にも本書に収められた六篇はいずれも、科学を「仕掛け」につかい、人と人がつながることをテーマとしている。

 

登場人物は、どこかに痛みや苦しさを抱えながらも、なんとか生きている、あるいは生きてきた人びとであり、彼らの姿には読み手が深く共感できる部分が多い。

 

短編ゆえの「ハッピーでもバッドでもない」終わり方も魅力で、登場人物たちのその後は読み手に委ねられているかのような余韻があり、その読後感が好みである。

 

個人的には、ここ最近、流血沙汰のドラマやアニメ、ホラー映画ばかりを観ていた反動もあり、この作品が大きな「癒やし」となった。

 

明日もなんとか生きてみようかと思える物語を求めている人には、ぜひ勧めたい一冊である。

 

『月まで三キロ』伊与原新 (新潮文庫)

 

 

#読書 #本 #感想