天才ピアニスト ファジル•サイの最新アルバム『Say Plays Say3』が昨年10月に配信リリースされた。
楽器はピアノひとつ。それとわずかに聞こえるファジル•サイの息遣いでこのアルバムは形作られている。
ピアノひとつでこんなに表現できるのかという驚きを与えてくれる。むしろピアノだけだからなのかもしれないが。クラシックをあまり聴かないという人もぜひ聴いて欲しい。
なぜなら、そこにはファジル・サイのピアノだけで聴くものを引き込んでいく演奏とその曲に題した情景を音だけで描いていくから。
ファジル・サイ
ファジル・サイはトルコ出身、1994年ニューヨーク・ヤング・コンサート・アーティスト国際オーディションで優勝(Wikipediaより)。
数々のコンサートや作曲を手掛けている。有名なところではモーツアルトのトルコ行進曲をジャズ風にアレンジした曲『Alla Turca Jazz』は色々な人々がいたるところでコピーし演奏されている。
アルバム『Say Plays Say3』
『Say Plays Say3』のアルバムは5つの組曲がまとめられたアルバムになっている。
izmir Suite,Op.79 7曲 Gezi Park Sonata,Op.52 4曲 2 Pieces,Op.81 2曲 Black Eearth (2019 Version) 1曲 Art of Piano,Op.66 1曲
◆izmir Suite
トルコ革命100周年記念に、初代大統領の「トルコ国民の父」ムスタファ・ケマル・アタテュルクへの組曲。イズミルはトルコの小アジア半島西部、エーゲ海のイズミル湾に臨む港湾都市。
映像や写真でしか見たことがなくても、エーゲ海を望む古代からの都市の眺望が思いおこさせる曲になっており、トルコ音楽の『イズミル行進曲』をブラームス、ショパン、ラフマニノフ調へとアレンジした曲もある。
◆Gezi Park Sonata
この組曲は2013年トルコ反政府運動に捧げたものだろう。その発端となったのはタクスィム•ゲジ公園。そのためGezi Park Sonataとなっている。この運動は当時首相だったエルドアンの退陣が目的だった。
そして、反政府運動に対し警察は鎮圧しようとする最中に、当時15歳の少年Berkin Elvanが警察官の催涙弾が頭部にあたり亡くなった。そのことを描いた曲「On the Killing of the innocent Child Berkin Elvan 」も収められている。
この組曲全体に前述のIzmir Suiteとは対極的な緊張感のある曲が並ぶが、この組曲の最後の曲は「Hope is Always in Our Hearts」とあって緊張感もあり、力強い希望がとてる曲になっていると感じる。
他の組曲も素晴らしすぎる構成になっていて心が揺さぶられる。ぜひ清聴してほしい。
おわりに
ファジル•サイは過去にツィッターへの投稿で、トルコの裁判所から「イスラム教への侮辱罪」で訴えられたことがある。のちに判決は破棄され無罪となる。理由は「思想や表現の自由であり、罰せられるべきではない」とのことだった。
アーティストが自分の思想や想いを公的な力を使われ、自由に表現できなくなる社会は、おそらく健全ではない。ただし、公的な力がのちに誤りだったと認めることができる社会は自由や民主主義が自浄作用として機能している。
少なからずそういう社会に住んでいることに、僅かながら感謝し、このアルバムの「Gezi Park Sonata」を聴きながら、わたしは毎日通勤している。
『Say Plays Say3』ファジル•サイ(2021/10/29)Appleミュージックなどにてデジタル配信中