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本、映画、ドラマをとりとめなく語るブログ

本のタイトルが長くて気になったら手に取ろう『千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話』

済東鉄腸さんは、千葉に引きこもりながらルーマニア語で短編小説を書いているという、非常にユニークな作家だ。 彼はクローン病という難病を患っており、東京までの移動も大変な苦労を強いられている。クローン病は腸における自己免疫疾患であり、腹痛や下痢などの症状を繰り返すため、日常生活に多大な影響を及ぼす。

そんな彼が今回発表したのが、自身のルーマニア語学習と小説家デビューの経緯を語った自伝である。この本は、引きこもり生活からルーマニア映画や文学に触れ、ルーマニア語に魅了された経緯を詳細に解説している。また、著者自身の行動力に注目したエピソードも多く描かれており、一般的な引きこもり像とは異なる生き方に興味をそそられる。


行動力のある引きこもり

映画からルーマニア語に興味を抱いた著者は、Facebookで見ず知らずのルーマニア人に友だちリクエストを送り始める。1 日30人ほどに抑えながら計画的に送ることで、スパム扱いされないようにしたのだとか。その結果、ルーマニア人の友人が増えていき、彼はルーマニア語小説家としての足がかりを得ることに成功する。また、ルーマニアの文壇で活躍する人々との出会いもあり、日本のルーマニア語翻訳家の重鎮とも交流を持つようにまでなった。
この本を読むと、著者の奇抜なルーマニア語学習法や、自身のルーマニア語小説家までの道のりに思わず感心してしまう。ルーマニアから日本にやってきた友人とのエピソードも交えて、彼の人生がドラマチックに描かれていて、ここまでくると大河ドラマの脚本のような流れを感じる。

ルーマニア愛

また、本書には、ルーマニア文学や映画についての解説やおすすめ作品が数多く掲載されているので興味が湧いてくると思う。さらに、著者は東欧におけるルーマニアの歴史的背景にも精通し、ルーマニアの近隣国のウクライナ侵攻についても敏感に感じているに違いない。

著者は、病気のために遠出ができない状況にあるが、ルーマニア文化や言語、文学に対する熱い愛情が、本書から溢れ出ている。本書の題名のインパクトで手に取って読むと、一般的なひきこもりのイメージとは異なる、行動力のあるひきこもりの姿が浮かびあがると思う。著者の行動力とルーマニア愛に驚かされる。行動を起こせば、何かが起こることを教えてくれる一冊、オススメ。

『千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話』
(著)済東鉄腸
左右社