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アカデミー賞発表前にノミネート作品がおうちで観れる時代になった『サウンド・オブ・メタル〜聞こえるということ〜』

2021年のアカデミー賞は4月25日(現地時間)。各賞にノミネートされている作品は日本での劇場公開を待つものもあれば、配信ですでに観られるものもある。できれば映画は劇場で観たいものだが、配信で視聴することは現地とのタイムラグが少なく、作品を楽しんだあとにアカデミー賞の式典を楽しめるという、今のご時世ならではだと思う。そして今年のノミネート作品の中でも気になった映画のひとつで、作品賞にノミネートされている『サウンド・オブ・メタル〜聞こえるということ〜』を観た。

主人公通じて体感する

あらすじ ドラマーのルーベンは聴力を失い絶望する。恋人のルーはろう者のコミュニティに入るようすすめ、コミュニティで新生活をはじめるが、ルーベンは聴力を失った自分に納得がいかず苦悩する日々を送る。

この映画のテーマはサブタイトルどおり「聞こえるということ」だろう。もちろんその逆の「聞こえないこと」も含まれている。

主人公ルーベンは轟音の中でドラムをプレイしてきた人間で、突然聴力を失ってしまう。その後、ろう者のコミュニティに入り、なんとか今の自分を受け容れようと努力するが、その反面どこかで、以前のような生活に戻れる希望も抱いている。その葛藤を描いた闘病ドラマであると中盤あたりから気付かされる。

それを意識したシーンがたびたび劇中でてくる。ルーベンと同じように「聞こえなくなる」を体感するため音楽や効果音が一切入らない演出がいくつかある。例えば本人視点でドラムプレイをしているがそれは無音のシーンで、その後カメラが第三者の視点で描写されると、それが壮絶なドラムプレイだとわかるシーンがある。この映画はいくつかこのような演出を繰り返し「聞こえる」「聞こえない」の差異を出している。

この映画のポイントは「聞こえない」ことが体感できることである。それを体感すると主人公が得ている葛藤に共感し、もし自分が突然そうなったらどうなるだろうか?「聞こえない」とは本当にこんな感じなのだろうか?などと頭をグルグル駆け巡るのだ。 そして、終盤に葛藤したルーベンがどのような行動をとって、どのような結論を出すのかは実際に観て感じて欲しい。

それでもこの世は素晴らしい

前述のような感想を述べたけども、この映画を観たあとに間違っていけないのは、「聞こえること」がありがたいことだとか「聞こえない」けど頑張って生きるんだとかを語っているのでは無いということ。

この世の中の美しさ(人によって美しさは違えど)は、「聞こえる」ことや「聞こえない」ことで判断されるものでもなくて、明日突然いつもあった日常が失うようなことがあって、その辛さを克服にするには時間がかかるかもしれないけれど、この世の美しさは普遍で、ずっとそこに存在しているから、その美しさにそっと目を向けて欲しいことなんじゃないか?と思った。この映画の終盤にルーベンが取った行動と最後のシーンそれを謳っている気がする。だからこそ、いまの時代に観たい映画。オススメ。

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