現在SF小説で大ヒットしているのは『プロジェクト•ヘイル•メアリー』。アンディ•ウィアーの長編小説第3作である。ライアン•ゴスリングが主演で映画化も決定している。
もし『プロジェクト•ヘイル•メアリー』をアンディ•ウィアー作品として初めて読んだのなら、次に読むのは1作目の『火星の人』より先に、2作目の『アルテミス』をすすめる。
なぜなら、愛すべき主人公、次々と起こるドラマ、納得のいく結末のドラマはハリウッド映画をそのまま読書で楽しめるからだ。興味があったら以下の感想など読まず、『アルテミス』を手にとてアンディ•ウィアーのストリーリーテーリングに感服すべし。
あらすじ
サウジアラビア生まれの主人公ジャズは6歳から月面都市「アルテミス」で生活し、ポーターで密輸の仕事を生業としている。腕利き職人の父親とは断絶中なので、父親には頼らず自宅も狭く貧乏生活をしている。
大金が欲しく大きな依頼をうけるが、そこから次々とトラブルに巻き込まれていく。しかし、持ち前の頭脳明晰さとポジティブな性格で、月面都市で起こる危険にいどんでいく。
ジャズの仲間たちと家族
ジャズのまわりには助けてくれる仲間たちがいる。地球にいる友人ケルヴィン、研究員でマッドサイエンティスト(?)のスヴォボダ、唯一の家族の父親。ジャズが困難な場面に出くわすと仲間たちが手を貸してくれる。ジャズがなんとかトラブルから脱出をしようとする頑張ってる姿は、共感し助けたくなる。疎遠気味な父親もなんだかんだで困ったときは助けてくれる。ジャズが大金をできるだけ早く稼いで、あぶない仕事の依頼をうけるのも迷惑をかけてきた父親のためなのだ。
アンディ•ウィアー作品の共通点
アンディ•ウィアーの作品の主人公はどの作品も科学的知見に溢れているという共通点がある。加えて本質的にポジティブで、論理的思考がともなっているので、落ち込んだり、失敗したり、悩んでもみても、論理的に解決することができる。
つまり、トラブルに遭遇しても科学的に解決する能力が備わっている。たとえば緊急事態でドアが開かないからといって足で蹴飛ばしたり、バールのようなものでこじ開けたりしないのだ。そして、なぜか他者に好かれやすい。『アルテミス』のジャズも周りから好かれている。ジャズが頭をフル回転させて、七転八倒しながらトラブルに向かう姿に劇中の登場人物たちのように、読者もジャズに好感を持ってしまう。
これは『火星の人』『プロジェクト•ヘイル•メアリー』の主人公たちにも同じことがいえるのだ。作者のアンディ•ウィアーがエンジニアとして科学者として生きてきたバックグラウンドがあるからこそ、描ける主人公たちなのだと思う。
おわりに
『プロジェクト•ヘイル•メアリー』が面白くて、次のアンディー•ウィアーの作品を読みたいのなら、『アルテミス』がオススメ。前者が「熱いバディもの」なのに対し後者は「応援したくなる主人公モノ」なので、どちらも少年マンガっぽい展開で読みやすい。『アルテミス』の映画化の続報も気になるので、手にとって読んでみては?
『アルテミス』ハヤカワ文庫SF アンディ•ウィアー 著 小野田和子 訳