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環境問題系SF?『第六ポンプ』

パオロ・バチガルピ。なんとなく口ずさみたくなる名前パオロ・バチガルピ。 このSF短編作品の作者の名前である。

バチガルピは環境系の専門誌の編集者をしていたそうだが、この短編のいくつかはそのようなバックグラウンドの匂いがする。つまり環境汚染や資源枯渇後の近未来やもうひとつの世界線にある現代を短編に描いているのだ。本人自体が環境問題を意識して作品を描いてるのでしょうけど。

表題の『第六ポンプ』は、化学物質が食糧や水に過剰に入り込み、それを摂取してきた人類の頭脳が弱くなってしまった(おバカになった)社会を描いている。主人公は汚水ポンプを整備する仕事をしているが、同僚や本人はポンプが壊れてもそれを直す術を知らない。簡単な計算もできない人々が、化学物質で頭脳が弱くなる前の高度な人類の文明に頼っている。加えて出生率はさがり、人類の娯楽はハイになって楽しむ程度で満足している。この世界には人類の他に人類から生まれた半猿半人のトログなる生き物が存在する。彼らは街の公園や道端で生活し、知能も低く、呆けて性行為くらいしかしていない。このトログは出生率の下がった人類とは反対に簡単に子供を産む。いずれこのトログが人類と成り代わっていくかのよう。この世界の人類も計算ができないほど知能も知性も後退しているので、トログと人類は大した差はないように思える。そんな世界の中で主人公は目の前にある自分の仕事をし、壊れた下水ポンプをなんとか整備しようと奔走する。

この『第六ポンプ』で取り上げたように、環境汚染(ここでは化学物質の過剰摂取)による人間への影響を描きアイロニーを感じるも、したたかに生きる人間を描きたいとも感じる。

他にも『砂と灰の人々』は食糧危機によって、適応するために砂を食べることができるようになった人間たちの物語、『カロリーマン』では鉱物資源の枯渇した世界、『タマリスク・ハンター』は水資源の枯渇した世界、『ポップ隊』は不死を手にした人類が、妊娠と子育てを禁止された世界、などなど環境が変化した世界の中を描いている。

しかし、環境問題を提起していのではなくて、そのような世界でも、したたかに生き抜こうとする人間を描いているのが読んでいるとよくわかる。古代ギリシャの世界から言われつづけているとおり「人間の本質は変わらない」ということをSF世界で描いているのではないか?と読んでいて思った。

他にもサイバーパンクっぽいものもあるし、様々な世界を味あわせてくれるのがこの短編集の読みどころでしょう。長編の新刊が出たらぜひ翻訳して欲しい小説家パオロ・バチガルピ。オススメです。

『第六ポンプ』(著 パオロ・バチガルピ 訳 中原尚哉・金子浩 ハヤカワ文庫SF)