一蹴 本とか映画とかドラマとか

本、映画、ドラマをとりとめなく語るブログ

SFが好きなら読んで欲しい『裏世界ピクニック』

何やら今期のアニメでやっているということで、原作小説を既刊の5巻までイッキに読んでみました。

主人公は紙越空魚(かみこしそらを)が、相棒の仁科鳥子(にしなとりこ)と裏世界と呼ばれる、奇妙な世界に行って、奇妙な生物を倒して、不思議なお宝を手にしたり、裏世界を探索していく。もちろんこれだけでなくて、裏世界を調査する人物たちと関わりや、裏世界から抜け出せない人たちを助けたり、さらには、裏世界の元ネタが都市伝説や実話怪談になっていたり、楽しめるところがたくさんあります。

なにかのSFに似ているなと思い、ググってみたら、Wikipediaに❝ストルガツキー兄弟の『ストーカー』を意識した作品で…。❞とあるではないですか!そう、たしかにこれはストルガツキーの『ストーカー』ぽいです。

『ストーカー』という作品は異星の超文明が地球に残した謎の地帯〈ゾーン〉で異星の文明の遺物を回収してくる〈ストーカー〉たちの物語です。

『裏世界ピクニック』でも、主人公たちがその世界にある奇妙なアイテムを回収するわけです。そのあとは、とある研究所へ渡して報酬を得てそのお金で居酒屋で打ち上げして…、と、まあ、よい青春物語ですね。

もうひとつ『ストーカー』っぽいところをあげると、『ストーカー』では〈ゾーン〉に触れすぎると、心身にいろいろと変調をきたし、主人公の子供は奇形になったり、それでも〈ゾーン〉に向かう主人公を描いているわけです。 『裏世界ピクニック』でも、〈裏世界〉に魅せられた人間や、〈裏世界〉での影響でほとんど人間の体(てい)をなしてないものを描いています。 それを見せられた空魚と鳥子を怖さを感じながらも、〈裏世界〉へに行くことをやめません。

4巻あたりから本格的にふたりで裏世界の探索に取り掛かっていくあたりは、オープンワールドRPGの世界に入り込んだ感覚と似ていて、この世界はどうなっているのかと興味が湧いてくることでしょう。さらに『裏世界ピクニック』はガールミーツガールのお話でもあるので、空魚と鳥子の関係がどのように進展するのかも読みすすめるたび気になるところです。

『裏世界ピクニック』で主人公たちがよく出くわす怪異現象が、ネット上の書き込みから引用しているところが面白い。5巻では『遠野物語』にも記されている民間伝承ネタも出てくるなどネタ元は多様多彩。さらに各巻末では引用元の参照と著者の解説があるのでよいです。某掲示板のオカルト版のまとめサイトを眺めていた若き日を思いだして、おっさんは懐かしくなりました。(遠い目)

語り口はラノベといえばそうなんですが、あえて分類するとSFホラーやSFサスペンスになりますね。前陳の『ストーカー』やスタニスワフ・レムソラリス』の読んでいるときのあのゾワゾワ感、もしくは読んでいるときに何となく背後が気になる感覚に似ています。そういうSFが好きな人にはオススメの作品です。

『裏世界ピクニック』宮澤伊織(著)早川書房ハヤカワ文庫JA